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レストランのシェフから、農家へ
大阪府住吉区在住の小松勝治さん(54)。堺市東区石原町にある13アールの畑で、数え切れないくらいの種類のハーブや西洋野菜を育てている。
大阪で、14年間にわたりオーナーシェフをしていた。そのオーガニックレストランを閉店し、農家へ転身したのは47歳の時。「当時、こだわりの食材を仕入れていたんですが、そもそも特殊な野菜は手に入らないし、時期やルートによって欲しい野菜が入手できなかったり、形はよくても味に当たり外れがあったりして。だったら自分で作ってしまおうと思ったんです」。
まず市の農政課へ、次、ハローワークへ
「畑さえあれば、何とかなる」。そう思いたち早速、市の農政課へ。しかし、当時の担当者はそっけない対応だった。「あなたね、これまで全く農業をしたこともない人が、いきなり農地を借りたいなんて言っても、そんなに簡単なもんじゃないんですよ」と門前払い状態だったという。「簡単じゃないことくらいわかっていましたよ。だから教えてほしくて行ったんですけどね、見事にばっさりと斬られました」。
他に、何か情報がないかと、勝治さんが次に向かったのはハローワークだった。「そこで農業の職業訓練校があることを知ったんです。ラッキーでした」。職業訓練校(ハロートレーニング)とは、就職に向けたスキルアップを目的に、無料で受講できる厚生労働省認可の学校である。当時、大阪市淀川区に、農業の職業訓練校「さわやかアグリ」があった(残念ながら現在は閉校)。
「講師は農業経営者でもあり、農業の基礎知識や栽培、流通、消費までのビジネスの仕組み、法制度、マーケティングなど多岐にわたって教えてもらいました。共に学んだ農家志望の仲間との出会いは、今でも大きな財産です」。
卒業後、勝治さん自身も3年ほどさわやかアグリで講師を務めたりしていたが、いろいろなご縁があって堺市の畑を借りることになった。
魔界へ、ようこそ
いよいよ勝治さんの畑、自称「魔界」へ。そこは、まるでハーブ園。畑の土壌は人間の腸内環境と同じだと捉え、善玉菌、悪玉菌、日和見菌のバランスを整えるべく、菌たちの餌となる良質の有機物で土づくりを行う。農薬は、一切使わない。畑の雑草は貴重な資源だ。雑草には雑草の役割があると考えている。
セイヨウニンジンボク、アロニア、シーベリー、ユキノシタ、セントジョーンズワート、ハックルベリー、オレガノ、セージ、レモングラス、キャロブ、パースニップ、フィンガーライム、カレーリーフ、タラゴン、アルテミシアコーラプラント、
サルシファイ、ホオズキトマト、落花生(ルビー、黒、おおまさり)、オカノリ、ビーツ、スイカ、メロン、ショウブ、バナナウリ、スベリヒユ、食用タンポポ。名前をあげていくのは、ここらへんでそろそろ断念したい。
とくに珍しいものでは、パイナップル、葉で豚肉を包むためのバナナ、ジャムのゲル化剤となるサボテンなど。
アプリ、対面で売り、講習会も開く
ハーブや野菜が料理でどのように使われるのか、自分がどれだけ使うつもりなのかを把握できているから、畑のものをくまなく活かすことができる。勝治さんの野菜たちは、生鮮品はもちろん、加工品にも姿を変えて消費者の口へ。
販売ルートは、ポケットマルシェ(スマホで売買できる産直アプリ)と、対面販売するマルシェやファーマーズマーケット、フェスティバルなど。販売だけではなく、畑でヴィーガン、薬膳、メディカルハーブ等の講習会を開催することもあるという。
平日は畑へ、土・日は全国各地へ
「レストラン経営は、お客さまが来てくれるのを待つ商売でした。今はこっちから出ていかんとね。平日は畑、週末は食エステを広めるべく、全国各地へ出かけます」。
一年のうち8カ月程度の週末は、「無添加LOHASドリームファクトリー」のサインを掲げたクルマに野菜や加工品、機材をのせて全国各地のイベントへ出かける。勝治さんがプロデュースする食べものの価値を、理解してもらえる顧客をターゲティングして、移動販売へ出向くのだ。
商品には、必ずストーリーをつける。加工品のレシピは、元シェフだった勝治さんのオリジナルで、食材は自社のオーガニック農園産という商品コンセプトを伝える。
ミニトマトは、スーパーボールすくいのごとく「ミニトマトすくい」のスタイルで販売するなど、お客さまが家に帰ってから家族や友人と「美味しかった、楽しかった」と話題にあげて、記憶に残るような仕掛けをつくれるよう、日々アイデアを練っている。
畑の一角に、青空レストラン
ひと通り、畑を歩かせてもらってスタート地点に戻ると、そこにはいつの間にか青空レストランが出現していた。
テーブルに並んでいたのは、勝治さんがプロデュースする「食エステ・美食充・メディカルハーブシリーズ」の身体にやさしいソーセージやハリラスープ、勝治さんご夫妻が初めて食べたときに美味しさに感動したというルタバガ(スウェーデンかぶ)のチップス、フロマージュ入りのハックルベリージャムなど。
「100人の人に食べてもらって、100人ともが口を揃えて美味しいと言ってくれる料理をつくりたいんです」。青空のもと、心地よい風に吹かれながら、絶品のお料理に舌鼓をうつ至福の時間を満喫させていただいた。