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農業は、自分にぴったりな仕事
泉北高速鉄道の栂・美木多(とが・みきた)駅から車で10分。山口農園の4代目、山口博史さん(42)を訪ねた。先代は稲作中心の兼業農家であった。野菜を出荷するようになったのは、博史さんの代になってからである。
東京の大学を卒業した後、自分にあう仕事を模索して、博史さんは大阪府の農業大学校に入学する。農業大学校は、自然豊かな羽曳野丘陵に総面積24万4千㎡という広大な敷地をもつ。ここで2年、みっちりと農業技術を学び、博史さんは就農した。
「田んぼでやっていくには面積が必要。トマトやナスなどの果菜類は一人でやるには手間がかかる。軟弱野菜なら一人で作業できる。作り手も多くはない。そこで、大阪しろなを栽培することにしたんです」。
大阪しろなを、ゼロから始める
田んぼだったところに海砂を客土し、ビニールハウスを建てた。ここへ軟弱野菜を年6回転ほど作付けしている。農薬は極力使用せず、有機物で土づくりを行う。栽培品目は、大阪府エコ農産物の認定を取得している。
2018年、大阪を台風が襲った。ビニールハウスは扉が飛んでしまったが、中ではちょうど大阪しろなとコマツナが収穫最盛期を迎えていた。
「一生懸命に手をかければ、こたえてくれます」と愛おしそうに収穫する博史さん。
大阪しろなは、ハクサイと体菜(タイサイ)を交雑してできた品種。明治時代に大阪の天神橋や天満橋付近で盛んに栽培されていた。葉色は薄緑で葉柄と葉脈は真っ白、形は結球*していないハクサイのよう。なにわ伝統野菜の一つである。
* 結球とは、葉が重なって球状になること。
農薬、化学肥料、5割以上削減
出荷先は近隣、ハーベストの丘農産物直売所「またきて菜」やス―パーマーケットのサンプラザなど。JA堺市大阪エコ農産物出荷部会を通して、出荷している。
「堺市には比較的たくさんの農家がいます。情報交換できるのが強み」という博史さん。部会に所属することで共同出荷や情報収集ができ、相談にものってもらえて心強い。
堺市では、地元農産物のブランド化を図っている。条件は、大阪府エコ農産物の栽培基準を満たしていること。「農薬・化学肥料を5割以上削減!」を掲げ、大阪エコ農産物「泉州さかい育ち」というオリジナルロゴをつけて出荷している。
品評会で、知事賞を受賞
博史さんの大阪しろなの品質のよさは、2017年に堺市農業祭の農産物品評会で大阪府知事賞受賞のお墨付き。こだわりの栽培方法をきいてみたが「特別なことはしていません。普通にやっているだけです」という謙虚な返答。
取材時、同行したJAの職員さんは隣で首を横にふった。博史さんは非常に研究熱心で、栽培技術に関する高度な質問を営農指導員へしばしば投げかける。その姿勢は、まるで求道者のようだという。博史さんには、それが普通なのだ。
美味しい大阪しろなの見分け方について、たずねた。「味に、大差はありません」という謙虚すぎる返答。たしかに大阪しろなは、味自体にクセがない。自らを主張してこない野菜である。
おすすめの食べ方を、きく。博史さんのお母さんは「おあげさん(油揚げ)と炊くと美味しい」とのこと。対して博史さんは「僕は、豚肉と炊くほうが好き」と主張がここで割れた。
おみやげに、大阪しろなをわけていただいた。帰宅して、両者の意見を採用し、薄揚げと豚肉と一緒に炊いてみたところ、お出汁が染み込んで、とても美味しかった。大阪しろなは、どんな料理や味付けにもマッチする、たおやかな野菜であることを実感した。