奥河内・河内長野の農業と農村をまもる若獅子。

河端訓獅さん 大阪きゅうり

(かわばたさとし / Kawabata Farm)

  • 南河内
  • JA大阪南
  • 大阪きゅうり
  • トマト
  • なにわの伝統野菜

なんば駅から南海高野線に乗り込んで30分、河内長野駅に到着する。大阪や堺から近く、自然豊かで風光明媚。そして農林業が盛んなトカイナカ、それが河内長野のイメージである。

採れたての新鮮野菜が並ぶ道の駅「奥河内くろまろの郷」は、地元民にも観光客にも人気で連日大にぎわい。ほかにも「府立花の文化園」や「関西サイクルスポーツセンター」、高野山真言宗の遺跡本山「観心寺」、真言宗御室派の大本山「金剛寺」、紅葉の名刹「延命寺」など観光地は数多い。

文化財数にいたっては国宝が6件、国重要文化財が77件もあり、全国の市区町村の7番目にランキングされている。駅前にはご当地銘酒「天野酒」の蔵元直営酒房があって、筆者にとって河内長野に来たら避けては通れない店になっている。

シシを狩り、村を守る

河内長野の地元民は我がまちを「長野」と呼ぶが、近年は「奥河内」という呼び名で山ガールに人気のスポットになりつつある。山ガールは河内長野を代表する岩湧山や滝畑四十八滝を目指すそうだが、その山麓にある50軒ほどの農村集落、日野地区にやってきた。ここにKawabata Farmがある。

河端家の先祖は関ヶ原の合戦を経て日野地区に移り住んだ。重厚で豪美な農家住宅からも歴史が感じられる。座敷には陣羽織と日本刀が飾られていた。

今は「イノシシと戦ってます」と河端訓獅さん(35)。山あいの農村ではイノシシが強敵となる。せっかく良いものを作っても獣害に合えば元も子もない。わな猟免許を取得し、山ぎわの要所要所に箱わなを仕掛けている。イノシシを誘き寄せるための餌は、自家製の米ぬかや野菜。地元の猟師仲間と連携して獣害から地区を守る現代の武士、訓獅さんがそこにいた。

会社員を辞め、就農。初年度売上135万円

代々続く農家の河端家であるが、専業農家としては訓獅さんが初代。もともと専業農家になるつもりはなく、大学を卒業して自動車販売の会社に就職した。

そのまま会社員でいくと思っていたが、新人研修の一環で行われた工場実習で、訓獅さんはものづくりに目覚めた。「ものづくりなら絶対、農業でやったるねん!」と直感した。1ヶ月も経たないうちに「辞めさせてください」と会社に申し出た。あと先考えない息子に、父は「農業は難しいからやめておけ」と猛反対した。

サラリーマンをやめ、農業大学校の短期コース第1期生として学び始める。隣街の富田林市農業公園「サバーファーム」でも下積みをした。

いざ23歳で就農、野菜3反、米1反半からはじめた。「初年度の売り上げが135万円ですよ」。これではあかん、と思った訓獅さんは、2年目に10反=1町(1ha)まで畑を広げた。案の定、手が回らなくなってしまった。

様子を見かねて、父が手伝ってくれることになる。ひと段落。4年目、さらなる規模拡大を目指して、新たにハウスを増やした。この頃、ようやく農業を生業としてやっていける手応えを感じたという。「最初の4年は、ムチャクチャでしたよ」と笑って振り返る訓獅さん、その表情は最強の楽天家だ。

就農6年目には大阪府4Hクラブ連絡協議会の会長に就任した。訓獅さんはいま、大阪の若手農業者のリーダーとして活躍する。全国の農業青年との交流が良い経験になったという訓獅さんは、地元でも農業青年が集まる場が必要だと昨年、河内長野4Hクラブを立ち上げた。

大阪で開催される平成30年度全国農業青年交換大会実行委員会*では副会長を務める。大会テーマはみんなと一緒に考えたという、ズバリ「儲」。さすが大阪の農家、根っからの商売人である。

*開催は、2019年2月13日から15日。

なにわの伝統を守る

訓獅さんが得意とする作物は、「果菜類」と「根菜類」だ。主力のトマトをはじめ、キュウリ、ナス、ダイコン、タマネギなどたくさんの野菜と米を作っている。美味しさと安全安心に定評あるKawabata Farmの野菜はどれも、道の駅のヒット商品である。にもかかわらず訓獅さんは「もっと腕を上げて美味しいものを作りたい」とさらなる上を目指す。

訓獅さんは「なにわの伝統野菜」の生産者としても有名。「天王寺蕪(てんのうじかぶら)」「田辺大根(たなべだいこん)」「毛馬胡瓜(けまきゅうり)」「鳥飼茄子(とりかいなす)」「玉造黒門越瓜(たまつくりくろもんしろうり)」など、多様な伝統野菜を手掛ける。

平成30年に伝統野菜に認証された「難波葱(なんばねぎ)」の生産も順調。難波葱は、なんばに由来する。吉本興業や高島屋本店、クボタ、南海電鉄など名だたる企業本社がひしめくお笑いと商人のまち、なんば界隈が江戸時代にはネギの産地であったというから驚きだ。

強いぬめりと香り、濃厚な甘みが特徴の美味しいネギは、葉が柔らかく倒れやすいということで長らく生産が途絶えていた。難波葱は、「鴨なんば」の発祥とも「九条ねぎ」の祖先ともいわれる。奥河内で丹精込めて育てた訓獅さんの難波葱はいま、なんば界隈の飲食店に出回りはじめている。

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