幻の白筍をつくる。竹藪に通い、土からつくる。

岸上幸一さん 大阪たけのこ

(きしがみこういち / 家族経営)

  • 泉南
  • JA大阪泉州
  • 大阪たけのこ

春の風物詩のひとつ、タケノコ。美味しいタケノコの産地として名を馳せる貝塚市木積(こつみ)の岸上幸一さん(59歳)をたずねた。

タケノコ農家としては、幸一さんで3代目。幸一さんのほか、幸一さんの息子の雄祐さん(31歳)、幸一さんの弟である和男さん(57歳)と和男さんの息子の真理さん(26歳)と力樹さん(19歳)を加えた5名が、タケノコ掘りの主要メンバーである。

岸上家のタケノコ山は3箇所あり、あわせて1500坪の竹藪から年間に採れるタケノコは約3トン。

タケノコづくりは、土づくりから

幸一さんたちは、偶然ひょっこり顔を出したタケノコを収穫しているわけではなく、一年を通して竹藪を管理している。イノシシよけのフェンスも設置する。

毎年1月の最終土曜・日曜には、「土入れ(じみいれ)」を行う。竹藪に肥料をまく。1週間したら粘土質の赤土を掘り起こし、肥料をまいた土の上に被せていく。赤土は、タケノコ栽培に適している。この作業を、先代は手作業で行っていた。幸一さんたちの代から、ショベルカーを使用している。

親竹は5~7年で役割を終える。タケノコが出なくなってくるのだ。役割を終えた竹は切り、場所と大きさを考えて竹藪の中から次の「親竹候補」を選定する。そのタケノコを間違って掘らないように、竹ひごで目印をつける。夕方に竹藪を見に行き、翌朝収穫できそうなタケノコの穂先があれば、その場所にも竹ひごをさして目印をつけておく。

収穫後には、干鰯や苦土石灰などを土に施す。除草剤は、一切使わない。草刈りは、夏から秋、手作業でやる。

木積の土は、もともと粘土質の赤土で、タケノコがよく育つ。土の中の栄養の偏りや保水の状態などで、出てくるタケノコの品質に差が生じるため、幸一さんたちは土づくりに手間暇をかける。「どうせやるんやったら、ええもんつくらんと時間の無駄やしね」。

そこに竹藪があるから、掘る

幸一さん、和男さんはそれぞれ、アパレルのネームタグの会社を営む。ともに、社長である。日々、大手メーカーからの受注でご多忙とのこと。「タケノコ栽培をやめるという選択肢は、なかったのか」。愚問だった。「だって、うちに竹林があるんやから、仕方ないやん。祖父や父が守ってきた竹藪をほったらかすわけにもいかんしね」と笑う幸一さん。

幸一さん、和男さんは幼少期より、竹林で遊び、遊びながら手伝ってきた。「暇さえあれば竹藪に行っていた記憶がありますね。小さい頃からタケノコを掘っていましたよ」と振り返る和男さん。歴史は、繰り返す。その習慣はいま、次世代へ引き継がれている。「なんとなく遊びで竹藪に行っていたら、知らんうちに掘ってました」という真理さん。

「物心ついた頃から、毎日、掘って、掘って、掘りまくって、2シーズン目あたりから、ようやく一人前と言ってもらえました。たまにしんどぉっ(疲れたぁっ)と思うこともありますけど、まぁ、いい運動になっています」とにっこり笑う力樹さん。

代々受け継がれてきた竹藪でのタケノコ収穫、時期は3月末から5月のゴールデンウィークあたりまで。オンシーズンは朝4時起き、頭にライトをつけて収穫しに行く。堀りたてのタケノコは、6時半から始まる市場での競りにかける。「この期間だけは、ゴルフや飲み会もセーブして、早寝早起きしています。さすがに夕方になると眠たくなってきますわ」と苦笑するのは幸一さんだ。

1 2

この記事をシェアする