大阪といえばナス、をめざして10種の大阪なすづくり。

中筋秀樹さん 大阪なす

(なかすじひでき / ナカスジファーム)

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日本一の高さを誇るビルディング「あべのハルカス」がそびえる大阪阿部野橋駅から近鉄南大阪線、長野線を経て約25分で富田林駅。駅から南に少し歩けば「寺内町(じないまち)」だ。江戸時代にタイムスリップできる町並みをすり抜け、南河内地域を南北につらぬく1級河川の石川を渡ったところに「ナカスジファーム」がある。

大賑わいの作業場

ナカスジファーム代表の中筋秀樹(42)さんはご両親と従業員、ベトナムからの研修生8名を含め総勢37人体制という大規模な個人農家を経営している。

ここが北海道の農業法人なら不思議ではないのだろうが、大阪ではまず珍しい大所帯、これにはビックリ。農園から次から次へと収穫コンテナが運び込まれてくる。大勢のスタッフさんがいかにもみずみずしい黒く光輝くナスを丁寧に選り分け、これまた丁寧に箱詰め、袋詰めしている。

ものすごく活気あふれる作業場をひとまず通り抜け、事務所に案内される。壁には経営理念が貼られていた。経営理念は「理念」「使命」「社是」「社訓」の4項目に分かれている。中でも「理念」の一文「【農】を志す我々が農業としてあるべき姿を創造する!!」には秀樹さんの地域と大阪農業を引っ張っていこうとする熱い思いを感じる。

秀樹さんがめざす農業のあるべき姿とはどのようなものか。

河内の農家さん

ナカスジファームは「大阪なす」の大規模生産者である。富田林市、河南町など南河内地域の農家約100軒で栽培される特産「大阪なす」は、品種的にはごく一般的な「千両なす」といわれるものだ。

ところがスーパーなどでよく見かける千両なすより随分と大きく立派に見える。大阪なすのLサイズは他産地では2Lサイズ以上に該当するというから、規格そのものが別格だった。聞けばこの地の豪快な生産者たちが、天下の台所、なにわの胃袋を満たすためにナスを大きく育て、箱に入らんようになって出荷箱の規格もさらに大きくした、というウソのようなホンマの話。

豪快、それもそのはず、摂河泉といわれる大阪の中でここは河内の国であったことを思い出した。「オーよう来たのワレ まあ上っていかんかい ビールでも」という、昭和50年代に大ヒットしたミス花子の『河内のオッサンの唄』でおなじみの「河内」にほかならない。

うまいデカい「大阪なす」

単に大きいサイズまで育てたというわけではなかった。

自然界ではハチが行う受粉作業に成り代わり「オーキシン」という植物ホルモンを一花一花に丁寧に噴霧することで実がふくらんで、タネのない柔らかな食感のナスになる。これが「トン付け」である。ふくらんだ実に付着している花びらはそっとつまみ取る。傷をつけないように。

そのほかにも1つのナスに対しておよそ食卓では想像できないほどの工程が行われている。「茄子の森」とでもいうべき広大な農場を何度となく往復するのは大変な作業だろう。青くささがなく、トロみと柔らかさが売りの大阪なすの評判を裏付けるものがここにあったのだ。

「農業を嫌とは思わなかった」

小さい頃「畑や倉庫で遊んでいた」という秀樹さんは、大阪府立農芸高校と大阪府立農業大学校を「首席(?)で卒業」し、20歳で農業に従事した「大阪農業界のサラブレッド」だ。ナカスジファームでは、いまは会長職でアドバイザーである父親の博行さん(70)に手ほどきを受けながら、大阪なすの生産技術を習得していく。

代替わりは仕事納めで突然に

8年前の36歳のことだった。年末の仕事納めで集合したスタッフに、いきなり博行さんが「みんな聞いてくれ、明日から秀樹に社長を交代する」と発表したのだ。

ゆくゆくは社長になることも想定の範囲ではあるが、あまりにも突然なこの代替わり宣告を秀樹さんは知らされていなかった。「あとで従業員さんは知っていた、と聞いた(苦笑)」とも。これが河内の農家継承スタイルなのか、豪快なオヤジさんの逸話は、外部の者にとっては最高に笑える。

農業経営者として注目を浴びている秀樹さんだが、先代からのスタッフだった外国人研修生に「アナタニ雇ワレテイナイ」と厳しい一言を浴びせられたこともあった。「最初の3年間はほんまに厳しかった」と振り返る。

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