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元禄11(1698)年、譜代大名の渡辺基綱が河内国、和泉国、近江国に1万3,500石を所領する大庭寺藩(おおばじはん)として立藩、陣屋を構えた由緒ある土地が堺市大庭寺である。
この半世紀で、周囲は泉北ニュータウンや阪和自動車道、堺泉北道路などに囲まれたが、大庭寺地区は今ものどかな農村風景を残している。
大庭寺に、食の都大阪の料理人達を唸らせる鶏卵があると聞いてやってきた。「ヨシダファーム」園主・吉田妙子さんが育てる卵である。吉田さんは機械メーカーで設計の仕事をしていたが、2004年に養鶏農家へ転身した。
穏やかに育つ鶏
養鶏農場の規模は、全国的に1万羽以上50万羽未満が7割を占めている。ヨシダファームで育てている鶏の数は、年間3000~4000羽。妙子さんが「彼女(鶏)たちは家族」と言うように、小規模であるが、だからこそできる丁寧な飼い方があるようだ。
ヨシダファームでは、一羽一羽とのコミュニケーションを大事にしていた。鶏それぞれに個性があり、顔も違うようで、家族の一員である鶏たちの顔はなんとなく穏やか。清潔な環境もあってだろう、とても大人しい。
「畜産の父」直伝のエコフィード
鶏が喜ぶ飼料づくりにもこだわる。妙子さんが、畜産の父と呼ぶ師匠、川上幸男さんから学んだエコフィード*を手作りしている。川上さんは泉佐野市で養豚業を営み、エコフィードの専門家として全国的にも有名で、大阪が誇るブランド豚「犬鳴豚」を作り上げた生産者である。
*エコフィード(eco-feed)とは、食品残さ等を利用して製造する飼料。食品リサイクル、飼料自給率向上のための重要なとりくみ。
川上さんからエコフィードの基礎や原料調達の方法などを学ぶことができたのは、エコフィード先進地の大阪ならでは。
「輸入飼料用トウモロコシ、大豆は使用しません」。中心となるのは近隣農家に生産してもらった飼料米。そこに大阪産の食用の蕎麦、麦、野菜、果物など人間が食べる「おすそ分け」素材を調達して独自に配合。鶏が好んで食べる幸せのメニューが出来上がった。
「都市農業の循環型養鶏、養鶏の本来をヨシダファームは追求します」と妙子さんは胸を張る。
大絶賛、大阪のおばちゃんに愛される味
「もう、あんたとこのでないとアカンわ」。ヨシダファームの鶏卵はどんな料理にもよく合うと、熱狂的なファンが多い。まったり濃厚で生食がオススメの「赤玉子」は、玉子かけご飯やすき焼きが良いとのこと。
キメの細かさと後味のキレが際立つことから和食にオススメの「白玉子」は出汁巻や茶碗蒸しに。
「うちのはエグ味が無くて、濃いけど淡麗。後味が抜群ですからね」。聞けば聞くほど、早く食べたくなった。
プラスチックの卵パック容器を、お願いすれば新聞紙で包んでもらえる。昔ながらのこの包装が、手土産として買って帰る大阪のおっちゃん達にも人気となった。お客さんの数も、男女半々。生産上手、販売上手である。