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駅から7分、いちご狩り農園
大阪市内からクルマで30分、最寄り駅の近鉄恩智(おんぢ)駅からは徒歩で7分。そんな足の便がいいロケーションにあって、いちご狩りができる農園「GrandBerry」を訪ねた。出迎えてくれたのは、森川農園の5代目、森川泰典さん(41)。いちご狩りのシーズンは12月上旬から、5月下旬まで。農園内には、直売所もある。
ていねいにシートが敷かれたGrandBerryのハウスへは、スリッパに履き替えて入場。バリアフリーで、車椅子やベビーカーのままでも、いちご狩りが楽しめる。徒歩でも行けるアクセスは、インバウンド(訪日外国人旅行)客にも、好都合。「最近は、香港、タイ、ベトナム、シンガポールからのお客さんが多いです」と泰典さん。
市場出荷より、対面販売がしたかった
森川家の長男だった泰典さん。いずれは農業を継ぐつもりだったが、大学卒業後しばらくは東京でシステムエンジニアをしていた。独立して自分で何かやりたいと思い、25歳の時に就農した。当時、泰典さんの両親は東部市場へ軟弱野菜を出荷していた。
「卸売市場には、集荷や分荷、価格形成、代金決済、情報受発信など、大切な役割があるとわかります。しかし自分の野菜に自分で値付けできない市場出荷は、自分がやりたいと思える農業のカタチではなく、どうしても対面販売がやりたかったんです」と振り返る泰典さん。
就農したての泰典さんにとっては、生産も販売も、何もかも初めて。試験的にナスやトマトの栽培に挑戦し、市場出荷をしつつ、ハウス前での販売もしてみた。
やりたい、知りたい、即、行動
「ナスやトマトづくりは初めてでしたので、普及員や地元の先輩農家さんの所へ足繁く通い、栽培方法を教えてもらいました。実がなった時は、嬉しかったです。喜んでハウスの前に並べて販売しました」。ところが「ぜんぜん売れません(笑)。続けていくうちに、定期的にお客さんが来てくれるようになったんです」。
ナスとトマトから始めた作付品目は、枝豆、オクラ、軟弱野菜(コマツナ、ホウレンソウ、ミズナ、シロナ)、ダイコン、メロン、いちじく、ミニトマト、バジル、梅、いちご、と年々増やしていった。
いちご栽培を教えてもらえそうな先輩農家が近くにいなかったので、インターネットで検索。ネットで見つけた千葉県の「マザー牧場」へ単身、研修に行った。泰典さんは、そこで「章姫(あきひめ)」と出合う。「細長い、円錐形のフォルムが美しい。口に含むと酸味が少なく、ジューシーで甘い。こんないちご見たことない、と感動、是非これを作ってみたいと思いました」。
章姫の原産は、静岡県。当時、関西ではあまり出回っておらず、パテントフリー品種でもなかった。研修後、パテントを支払って章姫の苗を入手し、念願の栽培を開始。同時に「女峰」と「アスカルビー」も作ってみたが、顧客から一番評判だったのが章姫だった。それから、章姫だけを栽培するようになった。
「大阪府4Hクラブ*に属していた時に、奈良県の4Hクラブのメンバーと出会い、奈良県でも章姫が盛んに生産されていることを知りました。仲良くなってからは今でも、お互いによく情報交換をしているんですよ」。出荷形態については、徐々に市場出荷を減らしていった。現在、収穫物はすべて農園内の自分の直売所で販売する。
*4Hクラブとは、農業の改良、改善をめざして活動する青年組織。4Hは腕(Hand)、頭(Head)、心(Heart)、健康(Health)の頭文字。
そんなこと、急に言われましても
面白い話を、伺うことができた。これまでの栽培過程で、だいこんが一気に1500本もできてしまったことがあったそうな。売り先を考えていた泰典さんに、いいアイディアが浮かんだ。小学校だ。「近所の森川です。だいこんが1500本できたので子どもたちと、畑へ収穫しに来られませんか」と突撃勧誘しに行ったというのだ。
近年は、グリーンツーリズムを楽しむ人が増えた。食農教育や学校教育園の大切さが謳われ、食育基本法という法律まで施行されている。しかし当時、まだそんな言葉は市民権を得ておらず、先生からの返事は残念ながら、けんもほろろだった。「だいこん抜きに来ませんかって、そんなこと、急に言われましても、困ります」。
先生のリアクションにめげず、だいこんのさばき方にアイディアを練った泰典さん。畑に面した道は、近所の幼稚園の通園路である。毎日、たくさんの園児と保護者が通る。でかでかと「掘りとり1本100円」と書いた看板を掲げ「よかったら、だいこんを抜きませんか」と声をかけた。
今まで、店でしかだいこんを買ったことがない消費者にとって、畑へ入り、葉っぱのついただいこんを自分で収穫する楽しさと採れたて野菜の美味しさは格別。誰かがハウスに入って収穫したり、だいこんを持ってハウスから出てきたりする姿を見ると、次にそれを見た人が興味を示す。結果、収穫のお客さんは、数珠つなぎにきてくれた。
親が1本だけと思っていても、収穫の楽しさに魅せられた子どもたちは2本も3本も抜いてくれ、販売促進(笑)。「面白い農園がある」と評判になり、1500本のだいこんは無事、畑から食卓へと旅立っていった。
だいこんは根よりも葉っぱのほうにカルシウムがたくさん含まれている。葉は刻んで炒めたり、おみそ汁に入れたりと、食卓でも大活躍する。それなのに、店頭のだいこんには葉っぱがない。畑から店舗まで運ばれる間に、葉から水分が蒸発するのを防ぐためである。畑から食卓までのルートが短ければ、だいこんは葉っぱをつけたまま販売できる。生産者の畑にある直売所の強みが、ここにある。
野菜畑から、いちご園へ
泰典さんの畑の中で、最も人気があったのがいちごだった。「いろいろな野菜を植える中で、はじめいちごを植えていたのは1畝だけでした。お客さんが喜んでくれるので、徐々に面積を拡大し、気がつけば、すべてがいちごになっていました」と語る泰典さん。
摘みとったいちごは、そのまま口に入れてもらえるよう、農薬は極力使用しない。温度管理と電気加熱式くん煙器による硫黄粒剤を使い、うどんこ病などの病虫害を防いでいる。
甘くて美味しいいちごに育つ、専用の土を使用している。いちごの光合成を助ける二酸化炭素発生器と送風機も設置する。栄養生長を盛んにするための電照も導入している。
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