命めぐる養魚場。東大阪にアクアポニックスあり。

山口裕之さん・山口裕二郎さん 魚

(やまぐちひろじ・ゆうじろう / 山口養魚場)

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魚だけじゃない、畑も田んぼもやる農家

生駒山の麓、東大阪市下六万寺町にある山口養魚場を訪ねた。出迎えてくれたのは、四代目の山口裕之(ひろじ)さん(62)と五代目の山口裕二郎さん(30)。

養魚池ではなくはじめに案内されたのは、畑だった。畑では、緑色の葉が朝露で光っていた。畑の横は田んぼで、稲刈り後の金色の稲株が並ぶ。土づくりには自家製の燻炭を使い、農薬は極力使用しない。大阪府「エコ農産物」の認定を取得している。

畑にはダイコン、カブラ、ハクサイ、ワケギ、ホウレンソウ、ジャガイモ、エンドウ、ナス、トマト、万願寺トウガラシ、シシトウ、タマネギなど。春夏秋冬を通して、片手では数えきれない栽培品目がある。裕之さんは、ナスやタマネギで東大阪市農産物品評会の最優秀賞を受賞したこともある腕前の持ち主だ。

山口養魚場ではまた、約4,000パレット分の稲の苗をJAから受託して生産している。昔から「苗半作、すなわち苗の出来で作柄の半分が決まる」と言われ、育苗は米作りをするうえで最も重要な作業のひとつ。そのため苗は自分で育てず、JAに委託する農家が多い。山口養魚場は、そのJAから苗作りを委託されているのだ。

米は、ヒノヒカリ、キヌムスメ、ニコマル、夢の華という品種を栽培しており、トラクター、田植機、コンバイン、籾すり・乾燥機など、農業機械は、すべて揃っている。山口養魚場は、魚だけでなく、多様な作物を育てる都市農家だった。

養魚場のルーツと究極の循環型農業

養魚場を始めたのは裕之さんの祖父の代から。それまでは米と野菜を栽培する、ごく一般的な農家だった。

「当時、養魚場をしていた人に、エサ用の小米*や米糠を分けてあげていたんです。その時に、それなら自分たちで養魚場もしたらええんちゃうか、という話になりまして。長門川の水は、今よりもずっと綺麗で豊かやったから、そのまま水をひいて養魚池をつくったんです」と裕之さん。ちなみに現在の水源は、地下水をくみ上げて利用している。

*小米とは、精米時に割れ、ふるいで選別された小さな米片。砕け米ともいう。

米を栽培しているから、小米や米糠が自給できる。それをエサにして魚を育てる。池の底にたまった泥は、ポンプでくみ上げ、畑に還元し、観賞用のハスを栽培する。まさに究極の循環型農業。東大阪版アクアポニックスではないか。アクアポニックスとは、魚と植物を1つのシステムで共生させて育てる持続的な農業のことである。

河内名産の河内ブナは、ここから全国へ

山口養魚場の朝は、夜明けとともに始まる。「魚たちが朝ご飯を待っているんで」。毎日、全ての養魚池をまわり、小米、炒り糠にさなぎ粉などを加えてペレット状にした特製のエサをやり、酸素不足や病気になっていないかをチェックする。

河内ブナのルーツは、琵琶湖の固有種ゲンゴロウブナ。京都の巨椋池(おぐらいけ)にいたゲンゴロウブナを枚岡(ひらおか)に持ち帰り、品種改良したのが河内ブナの始まりだと言われている。河内ブナは臭みがなくて味がよい。体高が高く、身のつきがよいという特徴がある。河内ブナの洗いは、河内の名産品として名高い、郷土料理のひとつである。

山口養魚場の出荷は、年間約130トン。河内ブナ、コイ、キンギョ、モロコ、エサ用の水エビなどを、全国各地の釣り池や放流ダム、飲食店などへ出している。「味はもちろん、釣り堀では元気がよくて食いつきがいい、と評判なんですよ」。

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