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秘伝、卵の孵化にはヒカゲノカズラ
「春先になり、そろそろ卵をもってきたかな、と思ったら、産卵の準備です」。高野山や松阪などの山野に自生している「ヒカゲノカズラ」を採りにいく。手芸で使う、モールのような形をしたシダ植物である。
「シュロや柳の根を使うところもあるようですが、うちではこれしか使いません」(裕之さん)。卵1粒1粒をふんわりと大切に抱きかかえさせるには、密生した葉のヒカゲノカズラに限る。長年の経験で培われ、山口養魚場に代々伝わる命を育む技術のひとつである。
卵から孵化すると網を張って、魚を狙う野鳥から防御する。潜水して魚を食べにくるカワウは、最も油断できない天敵である。最近は、「野池釣り」ブームの影響もあり、管理池と知らずにフナを釣りにくる人がいて困っている。管理池では釣りをしないように気をつけていただきたい。
生育の過程で命を落とした稚魚や出荷された親魚たちの弔いも行う。魚供養で、法要は、毎年6月1日に実施している。
伝統を守りながら、新しい挑戦
20年ほど前からは、地域内の小学5年生の田植えと稲刈り体験を受け入れている。米に加えて、大阪府の淡水魚に関する知識も得られるのは、山口養魚場ならではの学習プログラムだ。東大阪市役所やJAなどが主体となって開催している農業体験プログラム「THE米」の運営においても、田植え用の苗づくりは、山口養魚場の協力が不可欠。
市内の若手農家と料理店とのコラボ企画「ユウガタマルシェ&バル」では、「金魚すくいコーナー」が出現。地産地消の店頭販売に、野菜と魚が並ぶのも、メンバーに裕二郎さんがいるからだ。実は山口養魚場の三代目は裕二郎さんの父だった。父の後に四代目を継いだ裕之さんは、裕二郎さんの叔父さんだ。
五代目の裕二郎さんに今後の目標をきいてみた。「僕にとって、叔父は第二の親父です。譲り受けた伝統と技術を大切に守りながら、販売先の拡大にむけての新たな取り組みも積極的にやっていきたいと思っています」。
水を活かし、土を活かす、命めぐる山口養魚場。物質循環と生命、そして都市農業をつなぐバトンは、これからも脈々とに引き継がれていく。
取材日 2018/10/11
記 事 中塚華奈
写 真 柴田久子
- 氏名 / ふりがな
- 山口裕之さん・山口裕二郎 / やまぐちひろじ・ゆうじろう
- 生年
- 裕之さん 昭和31年生まれ(62歳) / 裕二郎さん 昭和63生まれ(30歳)
- 農家歴
- 裕二郎さん 7年(2011年より就業)
- 前職 / 出身校
- 裕二郎さん 大阪商業大学
- 組織名
- 山口養魚場
- 役職
- 社長
- 従業員
- 5人
- 主な生産作物
- 河内ブナ、コイ、モロコ、キンギョ、米、野菜、ハスの花
- 正式な品種名
- 米の品種は、ヒノヒカリ、キヌムスメ、ニコマル、夢の華
- 耕地面積
- 養魚池(20ヘクタール) 田畑(1.7ヘクタール)
- 特徴
- 河内ブナなど魚類と米、野菜、花の複合農水産業
- 理念
- 喜んでいただけるモノを育てる
- JAエリア
- JAグリーン大阪
山口養魚場
大阪府東大阪市