水を加減し、水で育てる。なにわ伝統野菜で勝負する。

北山睦三さん 大阪しろな

(きたやまむつぞう / 北山農園)

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北山農園のある堺市見野山(みのやま)は、泉北高速鉄道 泉ヶ丘駅から東へ車で10分。紅く色づき始めている街路樹を通り抜けると、住宅地の中に農業用ビニルハウスが姿を現した。

出迎えてくれたのは北山睦三さん(38)。曾祖父の代から農園を営み、大阪しろなをメインに、春菊、タマネギを生産している。

今流行りのスタイリッシュな髪形に、思わず「決まってますね」と声を掛けると、「実は昨日、美容室に行ったんですよ。『せっかく写真撮ってもらうんやから、髪の毛ちゃんとしておいで』と嫁に言われて。普段、畑ではヘアワックスつけませんよ」と大きく笑った。包み隠さない、とても気さくな人柄だ。

大阪の食文化と歩んできた大阪しろな

日本各地にしろなはあるが、それら「しろな」と「大阪しろな」は品種が異なる。大阪しろなは葉の全体が肉厚で、緑が淡い。茎はより真っ白なものが理想とされる。なにわ伝統野菜の一つであり、明治時代の初めにはすでに天満や天満橋付近で盛んに栽培されていた。以来、「菜っ葉」の名で親しまれてきた大阪の食卓に欠かせない野菜だ。

北山農園が大阪しろなの生産を始めたのは30年ほど前。同じ時期、栽培は地域全体へ普及したが、小松菜の人気に押されて需要は徐々に低下。他の葉物野菜に切り替える近隣農家が多い昨今、北山農園では春菊の需要が高まる秋~冬の時期を除いて、大阪しろなのみを周年栽培する。一週間置きに畝をずらしながら種を撒き、12棟のハウスで年間を通して安定的に生産している。

食べ方は、おひたしが一般的だが、新鮮なものは生でサラダにしても美味しいという。「クセのない柔らかな味わいは大阪のだしとよく馴染みます。まさに“だしを楽しむ野菜”ですね。加熱しても損なわれないシャキシャキとした食感も他の葉物にはない良さだと思います」と語る睦三さん。

地元のグルメや料理人の間では「しろなじゃないとあかん」という声も根強い。「求めてくれる人が居る限り、僕は大阪しろなで勝負していきたい」と胸を張る。

気付いたら農家になっていた

父は兼業農家だったが、祖父の死を機に専業農家に転向した。「後は継がなくていい。自分の代で終えるから」と育てられ、農園に訪れた記憶すらなかったという。睦三さんも農業を継ぐつもりはなく、四年制大学で建築を勉強。卒業後の進路を考えていた矢先、その父が倒れ、入院してしまった。

「元気になるまで」との条件で農業を手伝ったが、今年で15年。「気付けば、農業一筋です。自分自身でも不思議ですよ」と笑いながら、睦三さんは話す。「好きというより、農業は何年やっても正解が分からないから面白い」

7年前に経営を父から譲り受け、収穫以外はすべてひとりで行なっている。2018年9月に発生した大型台風21号では北山農園も大きな被害を受けた。「自然相手だからこそ完璧な答えは絶対にない。それが農業なんです。面白くてやめられませんね」と力強く答えた。

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