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ベッドタウンの、丘の上の農園
寝屋川市の京阪香里園(こおりえん)駅から徒歩30分。坂道を登ると、団地群の一角に「南農園」の入り口がある。総面積14,000平方メートル、高台にある南農園には、田んぼとイチゴハウス、野菜畑と果樹園が広がり、寝屋川市内を一望できる。
出迎えてくれたのは、南保次さん(56歳)。法律事務所勤務を経て、1990年に就農。お寺の過去帳を辿(たど)ると、江戸時代から続く農家の14代目である。
南農園は、寝屋川のほか生駒や伊賀に田んぼがある。山の開墾時に客土*し、もみがら、米ぬか、魚粕などでつくった堆肥をたっぷり投入してきた。土にかけたコストは「ベンツ何台分にもなる」という。「凄いと言ってくれる人もいますが、アホかもしれません(笑)」と、おどける南さん。
*客土(きゃくど)とは、土壌改良のため、田んぼや畑へ土を補填すること。
米は、農薬や化学肥料を極力使用せず、春の田植え前に花を咲かせたレンゲを土にすきこむ「れんげ農法」で栽培する。大阪エコ農産物の認定も取得し、「南さんとこのお米」というブランドで、農園併設の直売所やネットで販売している。野菜や果樹も、ほぼクチコミで完売する。
見えないところに配慮を尽くす、顧客ファーストな姿勢
2017年より、観光イチゴ狩りを始めた。ハウスに入ると、真っ赤なイチゴが鈴なりに実る。ハウス内には、モーツァルトやショパンなどのクラシック音楽が流れ、実に心地よい。「イチゴが美味しくなるといいですし、なによりお迎えする方々がここでリラックスして過ごしてくださるといい。お客さまファーストです」と、微笑む南さん。
寝屋川の土壌と気候にあう品種として、南さんがセレクトしたのは「紅ほっぺ」。ハウス内には、交配を手助けするミツバチと巣箱、ほかに温度、湿度、日照、二酸化炭素の測定器が並ぶ。データは、すべてコンピューターで管理している。多段式の高設栽培のイチゴは、子どもも大人も摘みとるのにちょうどいい高さ。足下に気を遣わずイチゴ狩りを楽しんでもらえるよう、通路には砂利を敷き、防草シートを被せている。
株元には、炭酸ガスの出るパイプも完備し、効率よい光合成を促す。培土は、経験からイチゴの甘さが最も増すよう調配合を重ね、土の下には、根っこがのびのびと育つよう、保水性と通気性に優れる特別な不織布を敷く。見えないところにこだわる。美味しく食べてもらうための手間暇は惜しまない。
南農園のイチゴ狩りは、12月から5月いっぱいまで楽しむことができる。
進化する都市農園の未来図
イチゴハウスの奥には、コーヒーマシンやハンモックのある新しいスペースを増設中。「やるやん!大阪農業」で紹介した和泉市 飯阪誠さんのシイタケ山を2019年2月に訪問。森林復旧作業を手伝いつつ、そこから切り出した丸太でテーブルやベンチをつくる予定とのこと。
「イチゴやジェラートを食べてもらってもいいですし、農園をいっそ非日常的空間にしていきたい」とキラキラした目で語る南さん。目下、プラネタリウムを楽しむスペシャルナイト、恋活や婚活イベント「苺パーティ、ステキな出会いを♥」などを企画中。地元のスイーツ店「ティ・コ・ラッテ」の協力を得て近々、農園カフェもオープンする。
先日、愛知県からオート三輪車(通称バタコ)を取り寄せた。車は、南さんが父に初めて乗せてもらったのと車種も色も同じ。ゆくゆく「バタコロード」を整備し、オート三輪で園内を周れるようにする計画だ。
「将来は、ヤギやニワトリがいて、ホタルがとびかうビオトープをつくりたい。国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)も見据えて、多様な生物が循環する農場を目指したい」と語る南さん。休憩スペースの梁には、南さんが生まれ育った生家の梁が使われている。農園の至る所で、南さんが父や先代から受け継いできたモノやコトを大切にする姿勢に触れることができる。