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大阪府の最北端、能勢町倉垣に「農醸一貫」という、米作りから酒造りまでの一貫造りをモットーとする秋鹿酒造がある。
能勢町倉垣は府境で、すぐの峠を越えれば京都府という山間地。標高250m前後の地域は貴重な動植物の宝庫であり、寒暖の差も激しい自然豊かな土地である。
ここには、グリコの看板と大きなカニ、通天閣と大きなフグ、はたまた大阪城など、いわゆる大阪のイメージとは全く異なる、のどかな風景が広がっていた。
食を学び、農の道へ
秋鹿酒造の次期七代目当主は奥航太朗さん(29)。とても明るく元気な好青年である。
「少ない期間ですけど料理を勉強できたのは本当によかった」と話す航太朗さんは高校卒業後、辻調理師専門学校に進学し、そのあと心斎橋の懐石料理「桝田」で見習いをした。そして家業である秋鹿酒造に戻った。
酒造業であり農業でもある秋鹿酒造で働くということは、「蔵人」をするだけではなく、「農業」もするということであった。
大阪能勢・秋鹿のテロワール
秋鹿酒造はワインでいうなればボルドーの「シャトー」やブルゴーニュの「ドメーヌ」といったスタイルだ。
ぶどう畑を所有し、ぶどう栽培からワイン造りまでを行っている生産者が、シャトーやドメーヌと呼ばれる。日本酒では田んぼを所有し、米作りから酒造りまで行っている生産者がこれに当てはまるだろう。そして秋鹿酒造の「一貫造り」はまさにそれ。
現在、日本酒メーカーは約1,400社程度あるといわれているが、その中で農業と醸造を一体化させた酒蔵は10数社。とても希少で貴重な存在である。
フランス語由来の「テロワール」という言葉も日本酒業界で使われはじめた。「テロワール」は「terre(土地)」という文字から派生した言葉で、ワインの味の決め手になる土壌や風土、微気候などを指す。
ぶどうと違って保存性の高いお米は、全国どこにでも流通できるので、その土地のお米や水でなくても日本酒は醸造することが可能である。これはこれでメリットではであるが、地酒の原点回帰ともいえるその土地に根差した「日本酒テロワール」が近年脚光を浴びている。
秋鹿酒造では、自社生産米や町内の委託生産米のみを使用したもの、特定の田んぼで生産されたものなど、実に多様なお酒がラインナップされている。
秋鹿酒造が生産する酒造好適米は、酒米の王様「山田錦」と幻の酒米「雄町」。どちらも高品質な酒造りができる品種であるが、その分栽培は難しいといわれる。
「酒造りを追求した結果、米作りは自然環境に優しかったんです」。その言葉通り、農薬や化学肥料を使わずに、ヌカや酒粕、もみ殻などから作った発酵堆肥を活かした土壌づくり、循環型の有機農法に取り組んでいた。
また病虫害に強く、倒伏も軽減できる「みのる式」といわれるポット成苗移植システムを採用し、元気な稲を育てることにも力を注いでいる。そして1反あたりの収量を3~3.5俵に抑える肥培管理を徹底することで、良質な酒米を生産しているとのこと。
良質な酒を醸す上での第一段階が原料の酒米生産であり、能勢の自然と美しい水、こだわりの栽培方法が「秋鹿テロワール」の根幹といえるだろう。