究極の直売、芝尾さんちのトマト。

芝尾健さん トマト

(しばおたけし / 芝尾農園)

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南海なんば駅から世界遺産「高野山」へと向かう参詣鉄道、南海高野線に乗り20分もすれば白鷺駅。1日の乗降者数1万人。政令指定都市の堺市に本拠地を置く大阪府立大学の学生やサラリーマンの姿が多い。

「道の駅」じゃない「自転車の駅」

駅から府立大とは反対方面に10分も歩くと「芝尾農園直売所」がある。ダイキンのエアコン工場と住宅街に四方を取り囲まれた4千平米の農地は堺市北区金岡町のいわばオアシスだ。ここで「芝尾さんちのトマト」が生産直売されている。

ハウス入り口の看板には「自転車の駅」の文字。「道の駅はクルマで来るやろ。うちは自転車で来れるくらいのお客さんでええんよ」。開店準備で走り回る芝尾農園代表、芝尾健さん(53)が言う。

ママチャリがやって来た。「一番乗りや!」自転車は二番、三番、四番、五番と続く。一気に自転車が増え、おばちゃん達が行列をつくる。直売所というよりは、生産現場や作業場にしか見えない農業ハウスである。

「量」をとるか、「形」をとるか。うちは「味」を選んだ

並んだおばちゃん達のお目当は当然トマトである。「お兄さんのは全然ちがう。もうスーパーのはよう買わん」軒並み絶賛の声。ちなみに健さんはお兄さんと呼ばれることが多い。

形は不揃いでも「極上の味」と定評の健さんのトマト。味を追求すると収量は落ちるそうだ。奥に連なるハウスから朝に摘み採ったばかりのトマトがどんどん運ばれてくる。1カゴずつ重さを合わせてトマトを盛る。全て500円のワンコイン価格に設定。お客さんの声を反映して、買いやすいポッキリ値段にしている。

きちんと整列して順番に購入するが、その量たるやハンパなかった。一人たいてい3カゴ以上は買っている。多い人は8カゴも買って〆て4千円(税込)。トマトの大人買いをはじめて見た。

それ何日分ですのん?「大体1~2日分やから、明日か明後日また来るでぇ~」芝尾さんちのトマトはこの界隈では「こたつでみかん」のようにパクパク食べられているのだ。

大学生農家の誕生

近畿大学農学部の在学中にお父さんを亡くした健さんは、大学時代に家業の農業を継ぐことになった。学業と農業の両立も然ることながら、都市農家にとってそれは恐ろしい相続税と、その他ズシッと重くのし掛かるさまざまな請求書が健さんを悶絶させた。

金額は伏せておくが、まあ逃げ出したくなるような額だ。大都会へと変貌する堺で農家が急速に離農していく時代だった。学生の身で、街の畑で、街の人に何ができるか。健さんは先代から栽培していたネギ、キャベツを青果市場へ出荷する農家から、トマトの生産直売農家に方針転換することになった。

今年、農業暦30周年を迎えた健さんは「水で描くようにトマトを育てる」と芸術的な表現をする。生育状況に合わせて水分をコントロールし美味しいトマトに育て上げる高度な技術、と理解する。

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