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大阪モノレール宇野辺駅から徒歩10分。大阪万博記念公園からも程近い場所に地域で有名な、きのこ作り名人がいる。「穂積きのこセンター」の中野稔さん(50)。年間約2万株のぶなしめじを菌床栽培している。
大阪のぶなしめじ農家? といぶかる人も多いだろう。それもそのはず、生産した大半が地元だけで消費されている。知る人ぞ知る幻の農家だ。
研究者だった父の転身
創業は1975年に遡る。大手食品メーカーの研究員だった父が、酵母研究のため大阪大学に出向。そこで、ぶなしめじの菌床栽培に出会った。「研究者気質ゆえでしょうね。はじめは家の庭先の空き地で趣味程度に始めたものが、のめり込んで徐々に拡大。いつの間にか父の職業が、研究員から生産者に変わっていました」と微笑む。
当時、稔さんは小学生。学業の傍ら、忙しい父を手伝う日々が続いた。「さすがに反抗期を迎えてからは農業が嫌でね。継ぐつもりは元々なかったけど、長男としての責任感はずっとありましたよ」。
大学卒業後はSEとして働いたが、継ぐことを決意したのは17年前。お父さんから「やめるわ」と、きのこセンター廃業をほのめかす言葉を聞いた瞬間、奮い立つものがあったという。ほどなく、稔さんが専業農家に転身。今では代表として、父と母、妻と一緒に「穂積きのこセンター」を守っている。
ぶなしめじができるまで
収穫までには約135日間を要する。まずは「培地調製」から。おがくず、米ぬか、ふすまなどを独自の比率でブレンド。培地を専用機械で瓶に「充填」して、高圧殺菌釜で一気に「殺菌」。無菌室で冷却後、スピーディーに「植菌」を行う。一度に4000本分を用意すると聞いて驚いた。
そうして、ようやく「培養」「生育」に入る。暗闇の部屋で約110日間。じっくりと菌を培養させ、生育室に移動して静かに成長を待つ。「ただ待つだけのようやけど、細かく温度や湿度を管理するのが大変です」と稔さん。
週末になると、近くのガンバ大阪ホームスタジオから声援が聞こえてくる。賑やかな声が、束の間の癒し。「ガンバに負けじ」と、ぶなしめじも頑張るのだと思う。25日前後でニョキニョキ。ずらりと並んだ景色は圧巻だ。
香り、食感の秘訣
「中野さんとこのぶなしめじは香りと食感が違う」と、取引先や直売所の常連客から評判が高い。
秘訣は培地に用いる国産杉100%のおがくずと、通常よりやや長めの培養期間。国産杉がきのこ本来の味を引き出し、じっくり育てることで中身が締まるのだという。
おすすめの食べ方を聞くと、「断トツで天ぷら」と即答。続いて、炊き込みご飯。「きのこはシンプルに焼いて食べるのが一番と思われがちやけど、うちのは特に香りが強いから、しっかり調理した方が旨味は出るよ」。
コリコリした食感と香りがたまらないという。止まらない食べ方談義に、喉が鳴る。稔さんのぶなしめじの販売は11月から5月まで。ぜひ味わってみて欲しい。
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