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マルチ栽培の絶品みかん
和泉市平井町の田中聖大(まさひろ)さん(28歳)。田中農園の6代目である。田中農園では、聖大さんのほか、祖父、祖母、父、母、弟さん(時々)の総勢6名が、温州みかんと旬の野菜を栽培している。
土づくりにこだわり、マルチ栽培*で育てられた田中農園のみかんは、発色がよく、甘く、コクがあり、とにかく絶品。取材時、今年のみかんの収穫は既に終わったときいてがっかりしていると、「みかんの貯蔵庫なら、見ていただけますよ」と聖大さん。曾祖父の代からという築70年になる貯蔵庫は木造、土壁の2階建て。十三段ある差し棚に、晩生のみかんが蒸籠(せいろ)にずらりと並ぶ光景は圧巻である。
*マルチ栽培とは、作物の育ちを良くするために、土をワラやシートで覆う栽培。
「こうしておくと、みかんの中の酸がとんで、甘さが増すんです。蒸籠が湿気を吸収してくれ、5月くらいまで出荷できるんですよ」。
聖大さんに、美味しいみかんの見分け方と食べ方を教えてもらった。大きいほうが見栄えはいいが、味は小ぶりなほうが、コクがあってオススメ。より甘くして食べる、コツがある。ポイントは「温めること」だそう。
「グッとにぎる、お風呂に浮かべる、電子レンジでチンするなど。温めると、酸がぬけるんです。炬燵(こたつ)でみかんを食べるというのは、実は理にかなっているんですよ(笑)」。
歩くだけでも、楽しい畑
畑に案内してもらった。縞模様になっているのは、畝ごとに異なる野菜が植わっているからである。畑には、ダイコン、紫ダイコン、タカナ、赤タカナ、ナノハナ、ヒノナ、カリフラワー、ニンニク、ハクサイ、ケール、キャベツ、黒キャベツ、レタスが、朝露に光っていた。
一年の作付品目は、100種類を超える。しかもスーパーマーケットではあまり見かけないような品種がたくさん。野菜の名前を教えてもらいながら畑を歩く、それだけで充分楽しい。「種苗会社の品種説明会が、大好き」という聖大さん。美味しそうな野菜、珍しい野菜、面白そうな野菜など、アンテナを常に張っている。
「最近は、料理せず、生食できる野菜を買っていく方が多いように思います」。消費者や取引がある飲食店のシェフとは、ふだんから顔をあわせるので、反応がダイレクトにわかる。どんなニーズやシーズ*があるかを考え、栽培品目をラインナップしていくのが聖大流だ。
*ニーズとは、市場が求める具体物。シーズとは、市場にまだない技術やノウハウで、ビジネスの種をいう。
「これはカリーノケール、生でばりばり食べられる苦みのないケールです。こっちはタイニーシュシュ、ミニハクサイです。これはカーボロネロという黒キャベツ、ケールの仲間で炒めると美味しい。これはハンサムレタス、シャキッとしてブーケ状で、緑と赤があって綺麗でしょ」。聖大さんに野菜を紹介してもらうと、食べてみたくなるし、料理してみたくなるから不思議だ。
田中農園の野菜を使う飲食店の一つ、イタリアンの「CUCINA IGUSA(クッチーナイグサ)」さんを訪ねた。メニューのサインボードから、田中農園のさつまいもや菜の花がその日の前菜やスープ、パスタの具材、肉料理のつけあわせなどに使われていることがわかる。
店主であり、シェフである秋月満美子さんは、地元の美味しい野菜を選び、素材の味わいを活かす料理を出すことを、店の方針にされている。料理ひとさら一皿に、食材を育てた人の顔や畑の景色を思い浮かべることができ、調理してくれたシェフの顔が見える。絶品である。
教師になろうか、農家になるか
10月に結婚されたばかりで、大人の雰囲気もちょっぴりただよう聖大さん。筆者とは、かれこれ7年ほどのおつきあいになる。出会った頃の聖大さんは、和歌山大学教育学部の3回生。学業やサークル活動に勤しみ、カラオケの歌唱力もダンスも抜群の、いまどきの大学生だった。
もともと教育に興味があり、アルバイトに塾講師をしていたほどである。「高校時代は将来、教師になりたいと思っていました。大学で教育関係の講義を受け、自分が描いていた教師像と少し違うものを感じました。考えた結果、就農することにしたんです」。
大阪で農業をするということについて、たずねた。「ここらへんは水も豊かですし、噴火するような火山もない。2018年は大変な年でしたが、ふだんは台風の直撃は稀(まれ)。土づくりさえしっかりしていけば、大阪は農業をするのに適した場所だと思います」と語る。
就農した現在も、聖大さんは塾講師の仕事を続けている。子どもと関わることや教えることが、大好きなのだ。「塾で教えるのは、僕の趣味かもしれません(笑)。今後は、教育の場を塾からうちの畑や里山に変え、食農教育*をとりいれた農業に専念したいと思っています」。
*食農教育とは、食の価値を学ぶ食育に加え、種をまき、作物を育て、収穫して農業の価値を学ぶこと。