都市農業、挑戦の記録。

父からのバトンと新しい交流事業

南さんの父は、職人気質の篤農家だった。当時から南農園は、貸し農園式の形態で地域の方々と関わりがあった。いまも四季折々の野菜を共に栽培管理してくれる近隣の仲間が10名ほどいる。

この父のもとへ、新設する中学校用に農地を譲って欲しいと交渉に通い詰めたのが岩本偵子さん。岩本さんはいま、農園に隣接する香里三井団地に住む。農園直売所の隣にコミュニティスペース「フラットみい」を開設し、直売所の手伝いも担う。岩本さんは、南農園を「団地の中のオアシス」だという。

保次さんの代から始めた企画も盛り沢山。「泥リンピック」や「田植え体験」は、地元の幼稚園児が大喜びする。田植え前の水田で綱引きや徒競走などを楽しんでもらう催しだ。

「田んぼアート」は、2013年から始めた。寝屋川市青年会議所や摂南大学の学生などの協力を得て、品種の異なる赤米や黒米を植え、稲で水田に絵や文字を描くプロジェクトだ。秋の「収穫祭」では、田んぼアートの鑑賞の場として隣接する高齢者介護施設「ぽぷら」が屋上を市民に解放する。

南農園の「収穫祭」は、今や地域ぐるみの一大イベントになっている。住民による絵本読み聞かせがあり、竹とんぼ体験などのブースがある。寝屋川のエコ仮面こと、ヒラタアキヒロさんのライブも開催される。ヒラタさんは、「南農園のうた」（ https://www.youtube.com/watch?v=8dlbczf3fNI ）を作詞、作曲した。このうたは、いま地元の中学、高校吹奏楽部の演奏曲となっている。

都市農園のこれからは、公共空間のこれから

「農は国の礎。地域の街に寄り添いながら共に成長し、誇りをもって農業を続けていきたい」そう語る南さんは2018年、第47回日本農業賞「食の架け橋の部」特別賞を受賞した。

南農園の中には、飲食店で使う珍しい野菜をシェフが自分たちで栽培している畑がある。少量多品目のオーダーがあった際、南さんがシェフへ「自分たちで作りにおいでよ」と声をかけたのが始まりだ。「畑の賃貸料？ そんなものは、いただきません。むしろ一緒に農園管理をしてくださって、お礼をこちらからお支払いしたいくらいです。農園は、一人じゃ管理できませんから」。

あぁ、賃貸料がいくらかなんてたずねた自分が恥ずかしい。南農園のキャラクターデザインを手がけるイラストレーターのこゆりさんは南さんを大黒天のイメージで描いた。理由がわかる気がする。

南農園はまた、寝屋川市の「防災協力農地制度」にも登録している。この制度は、寝屋川市が大阪府下で最も早くに取り入れた。震災時に住民の避難場所として農地を提供するというものだ。

春のレンゲ、夏の金ゴマ、秋のコスモスやソバなどの開花時には、農園が開放され、地域住民が花を楽しむ。南農園は私有地である。しかしそのあり方は都会の中の「コモンズ空間（公共空間）」といっても過言ではない。

「いろいろな人との出会いが、私の農業観を変えてくれました。今後も交流と経営のバランスをとりながら、多くの人に素敵と思ってもらえる都市農業のカタチをつくっていきたい。私が父からそう受け継いだように、自分の背中を息子が見て、農業がもつ魅力を感じてくれるといいなぁ」。

地域に根ざし、地域住民と共に歩む南農園は、これからますます面白くなりそう。顧客ファーストなコモンズ空間は、いつでも私たちに扉をあけてくれている。

取材日　2018／12／20

記　事　中塚華奈

写　真　柴田久子