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人口40万都市、枚方にこんな自然いっぱいの所があったのか、と驚かされる。ここ穂谷は、生駒山地の北端にひっそり佇む里山集落だ。穂谷は、朝日新聞創刊130周年・森林文化協会30周年記念「にほんの里100選」に選ばれた。この地には大阪府の絶滅危惧種20種を含む約650種の植物が自生し、在来の哺乳類や鳥類、昆虫類など、生物は多様性に富む。
ここで新規就農し、中山間地農業の維持発展に取り組む「ひらかた独歩ふぁーむ」の大島哲平さん(36)を訪れた。
「小さい頃から食べることが好きだった」
ご両親はともに教員、枚方の街なか生まれの哲平さんは農業には無縁だったが、「食べること」が大好きだった。龍谷大学国際文学部に進み、少林寺拳法部に所属。三段まで昇段するが関心は一貫して食べること、なりたい職業は料理人だったという。4回生の12月に始めた就職活動で、財団法人京都府学校給食会に入社した。料理人ではなかったが、食に通じる仕事に就いた。
旅人×農業=穂谷自然農園
食の流通についての経験と実績を着々と積み、仕事も順調ではあったが「自分はこのままでいいのか?」と将来に自問自答した結果、退職の道を選んだ。ワーキングホリデーでオーストラリアに渡り、バナナやマンゴー、ぶどう、カボチャなどを生産する現地の農園で働いた。
オーストラリアで、哲平さんは食の根幹である生産に携わることに意義を見いだした。帰国して兵庫県丹波市の有機農家・橋本農園で働き、のちに枚方市へ戻り、穂谷自然農園に勤務した。
穂谷自然農園は、「WWOOF(ウーフ)」の登録農家である。WWOOFとは、イギリスではじまった世界的な運動「World Wide Opportunities on Organic Farms(世界に広がる有機農場での機会)」の頭文字。WWOOF登録農家は、ウーファーと呼ばれる世界中からの来訪者に食事と宿泊場所を提供し、ウーファーは農家の手伝いをする。
そこにお金のやりとりは無い。つまり「お互いさま」の精神で成り立つ世界的な援農の仕組みといったところか。穂谷自然農園で知り合ったのが、お連れ合いとなった台湾出身の李さん。取材時、李さんは第一子出産間近ということで台湾に帰省中。お会いすることは叶わなかったが、穂谷自然農園が繋いだ素晴らしいご縁を目の当たりにした。
穂谷で独立、そしてグランプリ受賞
穂谷の自然に魅せられた哲平さんは、2015年この地で独立した。まずは一歩を踏み出すことが大事である、との思いから「ひらかた独歩ふぁーむ」と名付けた。しかし借りることができたのは日当たりの悪い山裾の農地。なかなか厳しい一歩となった。
独立してスタートしたのがイタリアントマトの「ソバージュ栽培」。極力人間の手を加えず、自然放任で栽培する方法だ。初期費用が少なく管理が楽、露地栽培が可能で収穫期も長い。さらに一般流通品よりも硝酸値が少なく、糖度や抗酸化力、ビタミンC含有量に優れるトマトが収穫できた。
「ソバージュ栽培」は穂谷のような中山間地域に打ってつけの栽培方法だった。この経験を地域活性化に役立てようと、農業経営プランコンテスト「第2回おおさかNo-1グランプリ」で提案し、見事グランプリに輝いた。
哲平さんはまた、BLOF理論という科学的かつ論理的な有機栽培の考え方に基づく技術で生産を行っている。まぐれで良い作物ができるわけではなく、かといって経験だけを頼りとしない。論理と科学を応用し、高い技術で栽培するのだ。