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大阪と奈良の府県境に位置する柏原(かしわら)市。市域の3分の2は山並みで町の中央には大阪平野を潤す大和川が流れる風光明媚な土地だ。シルクロードの終点、奈良への玄関口として古くから栄えたことから寺院も数多い。現代ではJRが1路線、近鉄が2路線、国道や西名阪自動車道と交通網はさらに発達し、大阪市内、奈良市内から約30分でアクセスできる。
ぶどうとワインが美味い街
柏原市に入るとまず目につくのが、山麓一面に光る「大阪型」と呼ばれる波状型のぶどうハウスだ。明らかに他県のぶどう産地では見かけない風景。主要な幹線沿いのいたるところには生産者のぶどう直売所があり、その数20軒以上。ぶどう直売所密集地帯である。
デラウェアやシャインマスカットなど各種生食ぶどうに合わせて、柏原の地ワインが同時に販売されているのも特徴だ。現在、柏原市内にはワイナリーが3軒あって、市民のワイン消費量も多いと聞く。昔は各家庭で自家製ワインが普通に作られていたというから、ここ柏原が「ぶどうLOVEの街」だということを思い知った。
創業明治三十六年、葡萄一筋
JR関西本線「河内堅上」駅を降りれば堅上地区の青谷だ。「葡萄のカネオク」奥野ぶどう園の奥野成樹さん(31)は、青谷で110年以上続くぶどう農家の四代目。大阪の若手農家が競うビジネスコンテスト「おおさかNo-1グランプリ」で優勝した実力者でありながら伝統を重んじ、三代目の父と母とともに守り続ける意志も強い。
デラウェアをはじめシャインマスカット、ピオーネを中心に、それらのぶどうは国道25号線沿いの直売所「美果園」で販売している。直売所には8月下旬からぶどう狩りができる農園も付属している。
福島県で就職しなかったら農業をしていなかった
成樹さんは、農業を継ぐ気は元々なかった。奈良工業高等専門学校から同志社大学工学部へ編入、学生団体「BIGUP大阪」など学内外で活発に動き、2011年4月に福島県いわき市に本社を置くカーオーディオ・カーナビの大手メーカーに就職する。3.11東日本大震災の直後である。
設計や商品企画の業務に携わり、数々の製品を世に送り出す機会を得た。新規プロジェクトのリーダーにも抜擢され、車室にリアルな音空間を演出する3ウェイスピーカーは思い出深い傑作となった。
成樹さんは、サラリーマンながら震災復興を担う若手リーダーを養成する「福島復興塾」にも参加した。そこには震災後に東京から福島に戻って起業する友人、知人がたくさんいて、避難生活中の仕事を会津木綿でつくるプロジェクトや福島の農産物を活かした駅弁、お絵かきアプリの開発など、次々とプロジェクトが立ち上がっていくのを側で見てきた。
第二の故郷という福島の人々に大きな刺激を受けた成樹さんは、2015年秋には会社を退職する。歴史ある実家を継げるのは自分しかいないと決意し、メーカー時代に培った企画力と復興塾で学んだ起業スピリットを持ち帰り家業のぶどう農園を継いだ。
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