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品目担当制です、泉州TONOファーム
泉佐野市のJR長滝駅から徒歩15分弱。就農して9年目になる戸野貴紀さん(33)をたずねた。泉州TONOファームは、貴紀さん、奥さん、両親と祖母の5名による家族農業。父はトウモロコシ、母はアスパラガス、祖母はタマネギ、というように作物ごとに栽培担当者を決めている。貴紀さんは、水なすとベビーリーフの担当だ。
「自分が食べたい、作りたいと思う野菜を、各自が責任をもって栽培しています。収穫など、最盛期はお互いに手伝うこともありますが、野菜の育て方や方針に口出しすることはありません。喧嘩になりますからね」と笑う貴紀さん。
あれ? イケるんちゃう、プランター栽培
「戸野家の長男だったこと、小さい頃から農業を手伝ってきたこともあり、いつかは農業をやらんとあかんと思っていました」。とはいえ貴紀さんが学生の当時は公務員ブーム。消防士を目指して、公務員の試験勉強に時間を費やした。しかし、運命の糸は貴紀さんを農業界へ導く。
高校卒業後は、農業大学校へ。在学中、大きめのプランターで、ベビーリーフを植えてみたことがある。順調に育ち、袋詰めして直売所で販売した。すると、顧客から好評を得た。
「空き時間に、試しにつくって出荷したベビーリーフが意外と売れたんです。あれ? けっこうイケるんちゃう、て思いました」と振り返る貴紀さん。とはいえ、貴紀さんはすぐに就農せず、大学校卒業後、営業職のサラリーマンになる。
就職してからも「なんか、思ってたんと違う」と違和感は感じ続けていた。自分には農業に対する捨てきれない思いがある、そう確信した24歳の時、サラリーマン生活にピリオドをうち、就農を決意した。
品目の空席、水なす
品目担当制の泉州TONOファームで、何を栽培するか模索していた貴紀さんに、近所の福井悟さん(47)が「水なすづくり、教えたろか」と声をかけてくれた。当時、家族に水なすを栽培している人は誰もいなかった。水なすは、貴紀さんの好きな野菜の一つ。渡りに舟の話だった。
さっそく両親に「水なすをつくる宣言」をしたところ、「土地はある。ハウスを建てるなら自分で建てなさい」と言われた。そこで、農業改良普及センターに相談。金融公庫から融資を受けることができ、貴紀さんは水なすのハウス栽培、第一歩を踏み出した。
赤色ネット、生物農薬で、大阪エコ農産物認定
貴紀さんのあとについて、水なすのハウスへ。吊り下げたひもで4本仕立てにされた水なすがズラリ。なす色の可愛い花が咲いている。「自分はもちろん、子供たちや家族にも安心して食べてもらいたいですから」。水なすの栽培には極力、化学的な農薬や肥料は使用せず、大阪エコ農産物の認定を取得している。
ハウスの防虫ネットは赤色だ。一般に、昆虫が認識できる可視領域の波長は250‐600ナノメートル*。赤色領域は620ナノメートル以上のため赤いネットをハウスにかけると、虫たちには暗幕がかかったように認識され、侵入を防ぐ効果が上がるのだという。
ほかにも貴紀さんは、捕食性の天敵を放つ生物農薬**を活用。ナスの害虫であるアザミウマやコナジラミを食べる「スワルスキーカブリダニ」をハウス内に放飼している。
* ナノメートル(nm)は、長さの単位で10億分の1メートルを表す。
** 生物農薬とは、作物の虫害、病気予防を目的に投与される天敵生物、微生物のこと。化学農薬と区別される。
新鮮、究極、みずなす浅漬け
「買ってきた水なすの漬物が苦くて、鉄臭く、なんとなくチープな味」と感じた体験がある。以来、貴紀さんは水なすを自分で漬けるようになった。「美味しい水なすの漬物が食べたい」と思ったからである。
市販の「水なすの漬物」には、なすの色落ち、変色を防ぐために「ミョウバン(硫酸カリウムアルミニウム)」や「錆びた鉄くぎ(酸化鉄)」が使われていることが多い。発色が綺麗で見た目はよいが、食品添加物の醸し出す食感や味に違和感をもつ人もいる。
貴紀さんは、米ぬかと塩だけで浅漬けをつくってみた。すると水なす本来の味が口に広がり、とても美味しかった。友だちにあげたところ、こんなことを言われ、一念発起。「めっちゃ美味しいやん。売ったらええのに」。
ちょうど、米ぬかを分けてくれる知人もいた。米ぬかに入れる塩の分量は、何度も何度も試行錯誤を重ねた。そしてようやく完成したのが現在のぬか床レシピ。貴紀さんオリジナルである。
4月、5月から、泉州水なすは最盛期。貴紀さんは、毎朝4時起きで水なすやベビーリーフを収穫。朝のうちに調整して、直売所へ出荷する。昼からはぬか床をつくり、袋に詰めたところへ朝採りの水なすを一つずつ漬けこんで包装する。ぬか床の作り置きはしない。
朝採りの水なすが当日の15時には、ぬか漬けとなって出荷、発送される。まさに究極の新鮮な漬物である。