都市農業、挑戦の記録。

佳世さんの関係性マーケティング

よしだフルーツファームのブルーベリーを食べたい人は、まずは農園を訪れてほしい。直売所で購入するもよし、農園で摘みたてのブルーベリーをそのまま口にいれて楽しむもよし。直売所では他にもコンフィチュール、和歌山の黒沢牧場とのコラボでつくったアイスクリームなども販売している。

スイーツ店、ベーカリー、カフェ、レストラン、八百屋などにも直接販売している。自分のつくったブルーベリーがどこでどのように販売され、どのようなケーキやパンに生まれ変わって食べる人に届けられているかがわかる販売チャネルを確立できているのは、佳世さんの関係性マーケティングの賜物だ。

佳世さんは羽曳野市と河内長野市に果物（ブドウ、イチジク、モモ、ナシなど）の農園を構える４人の若手農家で「南河内FRUITIST」というグループを結成している。メンバーのフルーツを使って商品化してくれるケーキ屋さんやパン屋さんとのコラボ、メンバーのフルーツをミックスしたコンフィチュールの商品化など、地域の飲食店や人々などステークホルダーを増やしながら、様々な活動を行なっている。

個々に独立した農家が集まり、新たなイノベーションを生み出してきた「南河内FRUITIST」の活動は、大阪府の2015年度「大阪産（もん）五つの星対象特別賞（PR大使賞）」を受賞した。

美味しいブルーベリーが心地よく育つ環境をつくりたい

「木で熟成させた生のブルーベリーは甘くて美味しい。品種によっていろいろな味が楽しめることも知ってほしい」美味しさを追求し、いろいろな品種がある園内はまるで植物園。ポット植えの「養液栽培」ではサザンハイブッシュ系、「露地栽培」ではラビットアイ系の多種多様なブルーベリーが栽培されている。

酸性土壌を好むブルーベリーの水やりには、雨水を活用。環境問題の一つである酸性雨が、ブルーベリー栽培には好条件になるというからおもしろい。困っているのは、完熟の実をつつきにくる鳥や根っこを食べたり、幹に入り込んだりして、木を枯らしてしまうコガネムシやカミキリムシの幼虫など。

「害虫にやられて木が枯れると、悲しくなります」

しかし、植物が大好きで、手間暇かけてブルーベリーを育てる佳世さんの辞書に「農薬に頼る」という文字はない。

一番好きな作業は、剪定。佳世さんが主となり、頼りになるお母さんと一緒に行っている。養液栽培のpH調整や水やりを一挙に担当するのは、化学の知識に長けたお父さん。コンピューター管理によって、植物の生長や気象状態に応じて自動施肥・潅水するコントロール化にも取り組んでいる。

露地栽培での土づくりにも余念がない。今年からは自然のままで手を加えず、高糖度・大粒多収を目指す「ど根性栽培」にも着手。日々、実験を重ねている。

最後に、大阪で農業をすることについて尋ねてみた。「生産者と消費者が近くにいるので、新鮮なものが届けられるし、地域の人たちとの接点ももちやすい」という佳世さん。大阪での農業には、都市ならではの強みがある。

父上にもお尋ねしたところ、ぽつりと答えてくれた。「ここは自分が生まれたところやから」佳世さん＆ご両親の個性豊かなユニット。三者三様の夢や想いをカタチにした空間。「よしだフルーツファーム」の神髄がここにある。

取材日　2018／6／15

記　事　中塚華奈

写　真　柴田久子